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市役所にたった1カ月でChatGPTを導入した話

こんにちは、横須賀市デジタル・ガバメント推進室の生成AI推進チームです!
横須賀市では、3月下旬にChatGPTの導入の検討をはじめて、約1カ月後の4月20日に全庁での活用実証を開始しました。

なぜ横須賀市はたった1カ月で全庁での活用実証をすることが出来たのか?
この記事では、そこに至るまでの背景も含めて、ご紹介します!


プロジェクト立ち上げ前夜

横須賀市は、2020年に「デジタル・ガバメント推進室」という部署を設立し、DX推進の取り組みを進めてきました。

デジタル・ガバメント推進室では、単にデジタル技術を導入するだけでなく、BPM(Businesse Process Management)メソッドを主軸とした業務改革を推進していて、様々な業務を根本的に見直していく取り組みを行っています。

人口減少や地域経済の衰退で使える予算や人員がどんどん減っていく地方自治体にとって、DX推進の取り組みは急務であり、スピード感を大事にする文化が根付きつつあります。

このような状況の中、ChatGPTが現れました。ChatGPTは、2022年11月30日に公開され、新年を迎える頃にはメディアの報道も徐々に増えてきました。さらに、2023年3月14日にはGPT-4が公開され、これを機にChatGPTの存在が広く社会に認知され始めます。

週ごとのChatGPTの「人気度の動向」指数(Googleトレンドのデータをもとに横須賀市で作図)

デジタル・ガバメント推進室内でもChatGPTは話題になり、「答弁検討」をはじめ、多数の文書を作成する市役所の業務での活用に可能性を感じていました。

そんな中、市長から指令が来ます。「ChatGPTを行政で活用せよ!」

プロジェクト立ち上げ、超高速で方針決定

月が替わって4月、プロジェクトチームが立ち上がりました。

早速、業務で普段使っているチャットツールからChatGPTを使うことのできるチャットボットを試作して、チーム内で利用方法を検討しはじめました。

検討内容1:嘘をつくAIをどう使うか?

最初に気になったのは「AIは時々、自信満々に嘘をつくこと」でした。

実際には存在しない制度を、まるであるように説明する試作ボット

調べていくと、ChatGPTが虚偽の情報を伝える可能性は排除できないことが明らかになりました。一方で利用者となる職員は、普段インターネットから得た情報を鵜呑みにせず、慎重に検討して利用しています。

そのため、ChatGPTを利用することはインターネットを利用するのと本質的には同じという整理をして、ときどき回答に嘘が含まれることを前提に利用方法を考えることにしました。

検討内容2:ChatGPTの有用な使い方は何か?

当初想定していた「答弁検討」は、ChatGPTに追加学習させる術が無いことが分かり実現できなさそうでした。また、何かに便利に使えそうな感触はありつつも、最適な用途は分かりませんでした。

そこで、多くの人に先端技術に触れてもらい、自由な発想で使ってもらって良い使い方を見つけることにして、普段から職員が使っているLoGoチャット上で広くChatGPTを使えるようにすることが最善だと考えました。

検討内容3:費用はどれくらいかかるか?

とはいえ有用性を分かり切っていないものに、膨大な費用をかけるわけにはいきません。

利用しようとしていた通常のChatGPT相当の「GPT-3.5-Turbo」というモデルは、最新かつ有償版の「GPT-4」と比べ、精度は劣るものの利用料金が非常に低廉でした。費用は多めに見積もっても数万円程度で、既存の予算の範囲で支出できるだろうと考えました。

また、LoGoチャットとChatGPTを繋ぐ架け橋となるチャットボットは、自分たちで内製することができていました。チャットボットを追加で構築する費用がかからないことも後押しして、費用面でのハードルは低いと結論付けました。

利用のハードルは低く、守るべきルールは高く

あっという間に方針が決まり、費用面も問題ないと分かりました。一方、職員で広く使うにあたっては、守るべきルールを整理する必要があります。

地方自治体の立場で守るべきことは、正しくないことを言う可能性がある点から考慮する生成AI特有のものと、それ以外の生成AI特有でないものの2つに分けられると考えています。

  • 生成AI特有のもの

    • 生成されたものをそのまま外部に出す通知等に使わない

    • 生成されたものを鵜呑みにしない

    • 直接市民の生命や財産などを左右するものに使わない

  • 生成AI特有でないもの

    • 入力した内容が(AIの学習も含め)他の用途に使われないようにする

    • 個人情報や機密情報を扱わない

他の用途に使われないようにするという点は、Open AI社のポリシーで「(チャットボット等で)APIを経由して使う場合AIの学習に使われない」と記載されていることを確認できたので、クリアできました。

一方それ以外の点は、職員に周知して守ってもらう必要があります。また、用途を探るという意味では、なるべく自由な発想で多く使ってもらう必要がありました。

そこで、市役所でよくある文字びっちりの縦書きA4の文書ではなく、画面のサイズに合わせた横長の、なるべく読む人に負担をかけない文書を、庁内向けの周知資料として準備しました。

実例を交えて、使い方を示す
個人情報等を扱うことは禁止であることを示す

また念のため、チャットボットとの会話開始時にも必ず利用の注意事項が出るようにしました。

プレスリリース:横須賀市史上最大のホットトピックに

このように実証開始の調整をするさなか、4月10日にOpen AI社のサム・アルトマンCEOと岸田総理が面会したことが報道されました。また4月14日には、パナソニック株式会社が全社的にChatGPTを利用することを発表しています。

この時点でチャットボットはほぼ完成し、守るべきルール等も整理できていたので、あとは始めるだけの状態でした。

「恐らく来週あたり、先進的な自治体が利用開始を発表するに違いない。どうせやるならば、1番を取りに行こう」

こうして2023年4月18日、横須賀市はプレスリリースを出しました。

翌19日から、ありとあらゆる報道機関から電話がかかってきて、鳴りやまなくなりました。さらに翌20日に行われた幹部会議には、テレビカメラが十台以上並び、「(不祥事以外では)横須賀市史上最大のトピックになったのでは」(関係者談)と言われるほどのスマッシュヒットとなりました。

まとめ

なぜ、新しい技術の全庁での実証事業を、これほど早く実現できたのか?
これには、3つの要因があると考えています。

要因1:DX推進で培ったスピード感

横須賀市ではDX推進の取り組みを3年以上続けています。そのため、ルール、費用、技術等の知見がチームに蓄積されていて、新しいことを最短ルートで始めることができます。

また、普段から好奇心を持って様々なものを検討している点や、それを許容する雰囲気があることも後押しをしました。今回の事業でも、市長からの指示が来る前からChatGPTに触れていたのに加え、チャットボットも事前に試作していました。

ChatGPTが話題になる前(3月上旬)に試作していたDeepL(翻訳サービス)用のチャットボット。ChatGPT用のチャットボットの原型となった。

このような下地があり、チームがChatGPTの話題に関心を持っているところに、ちょうど市長から指示があったことが非常に大きかったと言えます。

要因2:スモールスタートしすぎない

横須賀市は「”ChatGPTの有用性の正解”を現時点で分かっている人は居ないので、むしろ試して分かるようになることが目的」と考え、費用さえOKなら出来る限り広くスタートしようと考えました。

そうすることで、対象者を絞り込む等の事業設計を考える部分が少なくなり、その後の動きもより大きくなりました。

例えば、直後に実施したアンケート調査のサンプル数が増えて、調査結果に説得力を持たせることができましたし、多く報道されたため、触ってみる職員も増えたほか、様々な企業や本市AI戦略アドバイザーの深津貴之氏ともつながることもできました。

要因3:信頼関係の好循環がある

これまでのチームの成果や、前向きな取り組みへの姿勢が、組織内外で高く評価されており、信頼も築けていると感じています。
そのため、さまざまなことに積極的に挑戦し、実行することができます。

成果を素早く上げることで信頼が生まれ、また次の挑戦にも素早く取り組むことで、信頼関係の好循環が生まれ、要因1と要因2を支えています。

おわりに

さて、このnoteでは、なぜ横須賀市はたった1カ月でここまでやることが出来たのか、出来事とその要因についてご紹介してきました。

次の記事では、実証の結果を踏まえて感じた率直な感想や、ChatGPTが行政の事務に対してどのような効果を生み出すのか?等を書く予定です。

では、このあたりで。